ファイナンス
Finance
ファイナンスの力で経営を動かす
企業変革への真・ビジネスパートナー
財務数値の管理と報告に追われる経理・財務の専門職から、ファイナンスの最新知見をもって経営やビジネスそのものに変革を起こす価値創出の原動力へ。これまでの経理・財務部門とCFO(最高財務責任者)の在り方に一石を投じ、新たな存在意義と役割を提唱するEYストラテジー・アンド・コンサルティング(以下EYSC)のファイナンスユニット。「CFOアジェンダ」「レジリエントファイナンス」「マルチステークホルダー経営」など、数々のキーワードに託されたその理念とコンサルティングの方向性、醍醐味(だいごみ)について、リーダーの田中が語ります。
経営改革をドライブする経理・財務部門の真の役割
─「経理・財務部門の役割変革」を提唱しておられます。背景と必然性についてお聞かせください。
まず足元の経理・財務部門の実情を見てみると、人材不足、とりわけベテラン経理人材の定年退職が加速する一方で、若手人材の流動性も高まり、思うように業務ノウハウの継承が進まない現実があります。加えて、厳格化する法規制、物言う株主の台頭、サステナビリティへの対応といった数々の高波が押し寄せて、対応すべき業務の幅や高度性が日増しに高まっています。また、ビジネスを取り巻く最近の環境を見渡すと、かつてのように良い製品を作り販路を拡大しておけば安定的な右肩上がりの成長を実現できる時代は終わり、固定的な事業に腰を据えて取り組む余裕はなくなりました。旧来のビジネスが瞬く間に陳腐化していくなかで、矢継ぎ早にポートフォリオを組み換えながら次の事業を興していく。そうした経営が求められています。
そんな過酷な環境を生き抜く企業の先頭に立ち、持続的な成長へと組織を導くことができるのは、欧米企業並みにファイナンスのリテラシーを身につけたプロの経営者です。キャッシュフロー経営、企業価値経営、ROIC経営など、注目される経営手法にファイナンスの理論は不可欠ですが、本当の意味でそれを実践している日本企業の経営者は残念ながらまだそう多いとは言えないでしょう。それでも最近、大手有力企業でCFO(最高財務責任者)出身の経営トップが続々と誕生し、脚光を浴びつつあるのは、日本でもようやく機運が熟しつつある証左と言えるかもしれません。
であれば、経営トップを補佐すべき経理・財務部門の役割はこれまで以上に重大です。仕分けを切ったり入金消込をしたり、決算業務といった「守り」の仕事だけに終始せず、ファイナンスの視点から「攻め」の姿勢で経営トップに進言するビジネスパートナーへの転身が求められています。またそうでなければ、画一的な仕事に飽き足らない若手の有能な経理人材が、いつ離れていかないとも限りません。「守り」の単調な業務はDXやシェアードサービス、BPOも活用して極力圧縮し、余剰工数をより付加価値の高い役割へとシフトし、有能な人材を引きつけるべきだと思います。
─そうした変革をリードする存在が、CFOということになりますか。
そうですね。CFO自身が意識を改め、あるいは危機感を持ち、ビジネスパートナーとしての自覚を持たなくてはなりません。単に経理・財務部門の長としての立場に甘んじ、短期的な目線で財務KPI管理だけに目を奪われていては、組織そのものの存続さえ危ぶまれます。長期的な視点から非財務的な価値にも目を向け、CEO/COOの伴侶としてサステナブルな成長をけん引する存在であってほしい。伝統的な財務管理にも強く、新たな事業投資への原動力ともなれる「両利き」の経営者です。
そんな思いから私たちは今、企業の価値創出をドライブするCVO(Chief Value Officer)へ、ひいてはその先にCEOへの道も開ける日本のCFOの新たな姿を希求して、「CFOアジェンダ」と称する提言活動を進めているところです。そこには優秀なグローバル人材の登用も含む、柔軟で弾力性に富んだレジリエントな経理・財務組織、いわば「レジリエントファイナンス」への道筋も示されています。
ファイナンスの力で実現するマルチステークホルダー経営
─進化したCFOと経理・財務部門の下、どのようにして価値創出を導くのでしょう。
まず言えるのは、企業の長期的価値(Long-term Value)に照準を合わせることです。すると当然、目先の利益だけに捕らわれない、長い目で見た社会価値の実現が重要な経営課題となってきます。社会課題の解決を見据えた、企業活動による長期的価値の創出です。これは私たちEYがパーパス(存在意義)に掲げる「Building a better working world〜より良い社会の構築を目指して」に基づく方針として、支援を強化しているテーマでもあります。
従来のように株主価値に偏重した経営スタイルのままでは、長期的価値の追求は進みません。株主利益の最大化を優先するあまり、R&Dへの投資が滞り、従業員報酬への還元は進まず、新しい事業の幹も育たなかった。それらが要因ともなった「失われた30年」を取り戻すべく、日本企業は多様なステークホルダーを重視する経営スタイルに舵を切るべき岐路に立たされています。
コストカットの結果を利益と考えるのではなく、事業活動が生み出す付加価値に重きを置き、株主、従業員、地域社会、そして将来に向けた投資へとバランスよく配分する。私たちは、この経営スタイルを「マルチステークホルダー経営」と呼び、CFO/CVOが取り組むべき最重要課題の1つに設定し、学術機関や経済団体と連携し強く推進しています。
─経営変革をもたらすCFOの具体的な動き方についてもお話しください。
ROIC経営を例に挙げてみましょう。ROIC(投下資本利益率)とは、株主や金融機関などから集めて事業活動に投じた資本に対して、どれだけ利益を上げているかを表す財務指標です。この数値を基に資産効率を重視した収益性を指針とする経営手法がROIC経営ですが、多くの企業ではその算定と、ROICツリーと呼ばれる指標の分解に終始するばかりで、ROIC経営というよりもROIC管理の域を出ていないのが実情です。そうではなく、ROICを最重要指標として事業ポートフォリオ最適化を行い、各事業の構造改革を促し、経営の在り方そのものを変えていくことが、本来のROIC経営であり、正しい方向に導いていくのがCFOの役割です。
具体的には、ROICの数値が好ましくない、好転する見込みのない事業があれば、撤退も辞さない構えでトップに対応を具申する。反対に、安定的にキャッシュフローが見込める事業だと判断されるなら、その利益を新たな事業投資に振り向けるよう提言する。
ROIC数値の分析だけで満足していては、せっかくの改革機会も指標分解といった下流方向へ押しやられるだけで終わってしまいます。経営アジェンダとして上流へ議論を引き上げていく視座と姿勢を、ビジネスパートナーとしてのCFOは備えていなければなりません。口で言うほど簡単ではないのは承知していますが、そこをあえて支援していく。私たちファイナンスユニットが定める今期のテーマの1つです。
個の戦闘力を高め、チームの総合力に昇華する成長ユニット
─質の高いサービスを遂行するため、どのようなチーム体制を敷いていますか。
「ファイナンス・トランスフォーメーション戦略」や「アジャイル・ファイナンス(プロセス改善)」など、クライアントの課題に沿った7つの領域をサービスオファリングとして設定し、それぞれがチームとして高度な専門性を発揮する体制を築いています。
ファイナンスユニットに参画したメンバーはまず、7つの領域を満遍なく体験して理解を深めながら、自分がエッジを立てたい専門領域を徐々に見極めていきます。その際、守備範囲を狭めすぎないよう、本人の意向に沿ってプライマリーとセカンダリーのタグ付けをすることが、このユニットの特徴です。これにより、個々人が尖(とが)った強みを持ちながらも幅広い知見と大局的な視点を備え、柔軟に連携し合えるメリットが生まれています。
これに加え、最近では「クロスオファリング」を重点戦略に掲げ、領域横断的なサービスを提供する体制を固めています。CFOアジェンダを最上位に、ROIC経営やマルチステークホルダー経営、レジリエントファイナンス、Value Chain Improvementといった、私たちが提唱するテーマが扱う範囲は広大で、どれかのサービスオファリング領域に収まるものではないからです。こうしたプロジェクトの一員として広く深く体験を積むことで、メンバーの成長がさらに加速することは間違いないでしょう。
─実践を通じた能力開発に加え、メンバーの成長を高める仕組みはありますか。
EYSCとしての教育・研修プログラムやカウンセリング制度とは別に、ファイナンスユニット独自の教育体制を整えています。全メンバーに開放されたオファリングごとのトレーニングメニューを土台として、主にコンサルティング未経験者向けに開発した「コンサル道場」があり、会計領域のテクニカルな知識をとことんまで習得する「会計寺子屋」があります。
また、若手メンバーが中心となって活動し、管理職クラスに種々の提言を行う「ジュニアボード」という自主グループがあるのですが、ここでも一人ひとりの能力強化に向けたプログラムを用意してくれています。知識、スキル、マインドセットなど、コンサルタントとして求められる「個の戦闘力」を整理したもので、現場力強化に役立っています。
さらに加えて、新たに導入した「カウンセリングツリー制度」が効き始めています。ディレクターやシニアマネージャークラスのリーダー1名を基点に据え、そこから職階ごとにメンバーを連ねたツリー状の小集団をいくつもつくり、そのグループ内で相談や助言、あるいは育成などの交流を図る仕組みです。メンバーにとっては専門や立場の異なる複数の先輩からアドバイスをもらえる利点があり、上位職に向けては自分のツリーに対して育成の責任を負う意識づけにもなります。
このように重層的な成長の仕組みが整っていますので、コンサルティング初心者もどうぞ臆することなくファイナンスユニットの門をたたいてください。