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「インシュアテック」の時代へ 保険会社に伴走するコンサルティング
シニアマネージャー 古川
フィンテック、ヘルステック、インシュアテック......。デジタルの先端技術と結びつき、保険業界にも大きな変革のうねりが押し寄せています。人口減少が進み、医療費は拡大し、保険加入率も頭打ち状態が迫る中、保険会社はどのようにして生き残ることができるのでしょう。顧客期待値の変化を捉え、テクノロジーの進展をテコに保険ビジネスの新商品・新サービスを創出すべく、コンサルタントの参画が求められています。
顧客価値の変化とともに変わりゆく保険業界
――古川さんは主に保険業界を担当されているとのこと。生命保険業界の動向について教えてください。
生命保険協会の統計資料を見ると、2020年度の生命保険会社の収入保険料は29兆1978億円で、2年続けて減少しています(前年度比93.0%)。一方、生命保険文化センターが2021年12月に発表した調査結果では、個人年金保険を含む生命保険の世帯加入率は89.8%とすでに9割の世帯がなんらかの生命保険に加入していますが、世帯年間払込保険料は平均37.1万円と既に高い水準にあります。大きな流れでいうと、日本の生保マーケットは人口減少と少子高齢化に伴って、緩やかに縮小する傾向にあります。
その反面、高齢社会を迎えて医療費や介護費が嵩み、保険会社が支払う保険金も増えていくことが予想されます。加えて、少額短期保険、いわゆるミニ保険では異業種からの参入も進んでいて、企業間競争は厳しさを増しているのが現状です。少額短期保険は生保や損保のような金融庁による免許制ではなく財務局への登録制で、かつ最低資本金1,000万円の企業であれば取り扱うことができるため、参入障壁が比較的低く、新規参入がしやすいと言われています。
生命保険というのはライフサイクルがとても長い商品ですから、それを扱う業界の動きもわりと穏やかで、波風の少ない印象がありました。ところが、ここ10年から15年は状況が大きく変わってきているのを感じます。
――具体的にはどのような変化が見られますか。
まず1つは、保険商品の変化です。「万一のときに備える」ための保険だけでなく、「QOL(生活の質)の向上」にも目を向けるものが増えています。従来保険料は基本的に年齢・性別に応じて決まるものでしたが、健康年齢で保険料が変わるものや、健康への取り組みなどの個人の行動で保険料が安くなるものなど、パーソナライズされた健康増進型保険と呼ばれる商品が増えています。
その背景にはもちろん、そうした保険を求めるようになった顧客の期待値の変化があります。インターネットやSNSなどの普及に伴い、個人のニーズや行動によるパーソナライゼーションが当たり前になってきたこともこれを後押ししていると思います。
顧客にとっての価値が変われば、商品の売り方・買い方も変わります。生命保険への加入方法といえば、昔は生保レディなどと呼ばれる販売員が会社や自宅を訪問するのが一般的でしたが、今では代理店や銀行窓口、インターネットでも手軽に入れます。薦められたものを買うよりも、自分で調べて気に入ったものを選ぶ。消費行動自体が変わってきたと感じています。
コロナ禍も大きな変化をもたらしました。対面販売から、オンラインによる非対面型のセールスへ。デジタルネイティブの若い世代には特に、デジタル非対応では顧客満足は得られません。シェアリングやサブスクリプション型のサービスを保険に組み込む動きも加速しています。
先端テクノロジーと保険の掛け算で新ビジネスをサポート
――デジタル化の進展とも強いつながりがありそうですね。
はい。テクノロジーの進化も、保険業界を取り巻く大きな変化の1つです。金融とテクノロジーの組み合わせをFinTech(フィンテック)と呼びますが、特に保険業界では保険(インシュランス)×テクノロジーのInsurTech(インシュアテック)が台頭しています。AIやIoT、ビッグデータ活用といった先端技術を活用して、新しいサービスやビジネスモデルを創り出そうというわけです。
データ分析に基づくダイナミック・プライシングや個人の健康データを活用するパーソナライズされた商品の提供などもテクノロジーの進化があってこそ提供できるようになってきたものです。
そうなると、異業種からの参入もまたいっそう進む可能性があります。個人の購買データなどを大量に抱える巨大なプラットフォーマーが、遠くない将来、金融業や保険の世界にも本格的に進出するかもしれません。保険会社は、IT企業やX-Tech(クロステック)を得意とする企業、あるいは医療や健康などQOL関連企業との幅広い連携を視野に入れて、ビジネスをしていくことになるでしょう。
大手の保険会社は歴史も古く、システムにしても人にしても莫大な資産を抱えているため、そのままでは変化のスピードに乗り遅れないとも限りません。これまでの重厚長大なシステムや、人の働き方についても大胆に見直す時期に来たのだと思います。
――そのような中で、コンサルタントはどのような役割を果たすのでしょうか。
将来を一緒に考え、ともに走る伴走者でありたいと思っています。ビジネスの最前線に立つお客様の現場力と専門知識、私たちの情報網や専門スキルに基づくデータや事例、これらを互いに持ち寄り、今後にむけた検討を重ねています。コンサルタントならではの客観性とお客様の現場感覚の相互作用によって、どちらか片方だけでは見つけられないものを見つけられることもあると思っています。
同じ価値観と想いを共有し、互いに刺激し合いながら一体となってプランを実現するパートナー。そうした関係性を築くことが、コンサルタントに求められていると思います。
チームの力で保険と社会の次代を拓くEYの役割
――一人のコンサルタントとして、保険業界の発展にどのように貢献していかれますか。
私はIT企業の出身ということもあり、コンサルティング業界に移ってからもITを活用する案件を中心に担当してきました。1つ例を挙げると、数年前になりますが、RPA(Robotic Process Automation)を生命保険会社に展開するプロジェクトを担当させていただいたことがあります。RPAとは、人間が行う日常的な作業を代行する自動化技術、いわゆるロボティクスで、業務効率化の必要性から様々な業界で急速に普及が進んでいます。
今でこそRPAを導入する企業は珍しくありませんが、その保険会社で検討を始めた当初はRPAの用語すらまだ世間には認知されていない状況でした。PoC(概念実証)から始め、RPAによる単なる業務自動化だけではなく、今後の業務改善やコスト削減、人財活用の構想を実現するための組織づくり、標準化、育成施策など、お客様やプロジェクトメンバーと一緒に幅広いトピックに手探りで1年以上かけて取り組んだだけに、苦労はあったものの達成感は大きく、お客様にも喜んでいただけたことを覚えています。今もそのプロジェクトはさらなる発展を続けており、働き方改革にもつながっているなどのお話も伺っています。変化のきっかけに立ち会うことができたことを非常に嬉しく思っています。
保険業界におけるIT活用には、AIやデータなどを活用して顧客ニーズの変化に対応しマーケットを拡大する「攻め」の施策と、業務効率化やコスト削減、リスク管理などの「守り」の施策があります。これらに伴う戦略や計画の策定、組織設計、人材活用など、施策に関わる全てがコンサルタントの仕事につながり、保険業界の発展にもつながっていくと思っています。
私自身は今、サイバーセキュリティの案件に関与していますが、コスト削減施策などとは異なる費用対効果などの成果の表し方に難しさを感じています。でもお客様とのそんな話し合いも、面白みの1つ。顧客企業や業界にまだ根づいていない、これからの可能性がある技術やサービスを、人とのつながりなどのさまざまなアンテナを通じて見いだし、一緒に考える。この仕事の醍醐味だと思います。
――どのような人と一緒に働きたいですか。
コンサルティングファームが面白いなと思うのは、いろいろな業界や専門領域から人が集まっていて、一人ではなくチームで仕事をするところ。バックグラウンドも得意分野もバラバラな人たちが、それぞれ何かを持ち寄って1つのものを作り上げていく。そうした環境を楽しみ、もっといいものをつくろうと前向きに取り組める人と、これからも一緒に働いていきたいです。
保険業界は変革の時代を迎えていますが、生きていくうえでのリスクに備えたいという人々の根本的なニーズはこの先も変わらないと思っています。保険会社としてそれにどう応えていくか。今後取り組むべきテーマがたくさんあるので、新しいことに積極的にチャレンジしてみたい方とご一緒できるといいですね。
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