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「経済安全保障」の先端を拓く日本のコンサルタントの牽引力
マネージャー 泙野 シニアコンサルタント 松尾
8月1日に施行された経済安全保障促進法により、半導体などの「特定重要物資」の確保や「特定重要技術」の開発促進が国の方針として固まりました。ウクライナ情勢 によって資源高騰と物資安定供給への危機感が高まるなか、にわかに関心を集める経済安全保障。米中貿易戦争に端を発して分断化が加速する不透明な国際情勢において、日本企業の取る姿勢、打つべき対策をどう見据えればいいのでしょう。産官学の連携で最前線の難関に挑むコンサルタントに聞きました。
経済という武器を使う「攻め」と「守り」の闘い
──経済安全保障推進法が今年5月に国会で成立しました。なぜ今、「経済+安全保障」といった新しい概念が注目されているのでしょう?
松尾 岸田内閣になって初めて経済安全保障担当大臣が置かれましたし、この8月1日には内閣府に経済安全保障推進室が発足しています。「経済安全保障」という少し前までは耳慣れなかった言葉が急に脚光を浴びるようになった背景には、米中の政治的な対立や、ロシア・ウクライナ問題といった国際情勢が色濃く関係しています。
安全保障といえば、以前は軍事的な対応策を想定するものでしたが、最近の国際的な対立関係においては軍事面だけでなく、輸出規制や関税の引き上げをはじめとする経済面での対抗策が重要な意味を持つようになりました。となれば、軍事産業だけでなく、あらゆる業界に対して無視できない影響が及びます。そこに目を向けて対策を考える必要性が、これまでになく高まってきたということです。
泙野 東西冷戦の終結後、世界の覇権は米国が握る状況が続きました。それが、2008年のリーマンショックを経て中国の経済力が多大な影響力を持つようになると、状況は一変します。米中の新たな覇権争いですね。しかし、互いに軍事力を誇示するだけでは相手の成長を止めることはできません。国家のパワーというのは基本的に人口規模に比例しますから、このまま中国の技術力が高まり、経済力が増していけば、やがては軍事力を含めて米国を凌駕するほど強大化することは目に見えています。米国としては、その成長を少しでも遅らせたい。そのための有効な手段として、必然的に出てきたツールが経済なのです。
重要なことはドローンやAIに代表されるように、一般に使われる民間産業の技術が軍事にも転用されるケースが増え、軍事産業との境目が曖昧になりつつある事実です。企業はそうした技術が知らぬ間に流出しないよう防御しなければなりません。まさに経済活動そのものが、安全保障に直結する状況といえるわけです。
企業活動に求められる「先手必勝」のマインドセット
──企業としてはどのように対応すればいいのでしょうか。政府の方針に左右される部分も大きいように思えますが。
松尾 政府の決定を待ってから行動を起こしたのでは遅い、という認識を持つことが大切だと思います。外国政府の規制であれ、日本政府による措置であれ、今後どんな分野を標的にどのようなルールが敷かれるのか、いち早く情報をキャッチして自ら機先を制する姿勢が求められています。
泙野 実際のところ、政府が出す指針を待つ、法制化されたら対応する、あるいは他社の動きを見ながら検討するといった受け身の姿勢でいる企業は多いのですが、そのマインドの部分をまず変えていく必要があるでしょう。
経済安全保障は国家間の関係と思われるかもしれませんが、企業の資本力やネットワーク、人的資源などを駆使して何らかのアクションを起こすことは可能です。例えば、サイバーセキュリティを含む情報管理の強化、重要物資の安定供給に向けた貿易体制の見直しやサプライチェーンの強靱化、生産工程における人権問題など企業の信用やブランド価値に関わる危機管理、などといったテーマが挙げられます。個別の課題を特定し、できることから始め、徐々に広げていくという方法です。
松尾 経済安全保障の幅の広さを踏まえて、自社にとって最も影響が大きいと思われる部分は何かを見極め、まず一歩を踏み出すことが重要ですね。
──とはいえ、国内外の状況を見ながら将来を予見し、自社の課題をあぶり出すというのは非常に難しいように思えます。
泙野 そうですね。ロシアがとった行動に世界中が驚いたように、そもそも国際情勢で何が起きるかを予測することは至難の業です。だからこそ、我々のような専門知識や専門家とのネットワークを持つコンサルタントが介在する意味があるわけです。各国の水面下で今、どんな政策協議が繰り広げられているのか、それに基づき何らかの政策や法令が具体化する予兆はあるか、あるとすれば企業活動にどんなインパクトをもたらすのか。そうしたことを分析し、近未来のリスクシナリオを策定して、事業継続をサポートする。EYの場合、そうしたご支援が強みの1つとなっています。
「見えない未来を見通す力」で支えるコンサルタント
──最近の事例で、みなさんの予見が的中したものはありますか?
泙野 今年4月、中国政府は複合機やプリンターといった事務機器の設計、開発、生産を中国内で行うよう求める政策の検討を始めました。ハイテク製品市場から外資企業を排除することが狙いです。国産化を進め、国内だけで完結するサプライチェーンをつくることで、中国は技術や情報が国外に流出することを防ぎ、また他国から同じような規制を仕掛けられてもダメージを抑えることができます。国内で必要なものは国内でつくる。同時に外資企業を中国に依存させることで、外国からの制裁を防御する。そうした戦略の一環です。
松尾 複合機にはたくさんの半導体や電子部品が使われていて、さまざまな情報をスキャンすることができますし、インターネットにも接続されているので、技術的にも軍事的にも非常に重要な製品です。もしその開発・生産が中国内に限定されるとしたら、世界シェアトップに立つ日本企業への影響は甚大です。中国市場から泣く泣く撤退するか、中国に主要技術を渡しても市場を守るのか。いわば踏み絵を迫られることになるわけです。
泙野 中国政府は300品目を超える製品の国産優先策を明らかにしていますし、そうした動きが加速していることはわかっています。ただ、どの製品がいつ標的になるのか予測するには緻密な分析を要します。我々は2年ほど前から複合機の動きに着目し、中国の地方政府などが購入する製品から徐々に日本製が減っている事実をつかんでいました。
つい先日も、病院などで使う医療機器の国内調達を推進する法案が発表されましたし、近いうちにパソコンやサーバーが標的になる動きも見られます。このように、いずれ法制化によって外資の閉め出しが本格化する恐れがあるのなら、それを見越した手を打てるようご支援する。我々のチームが力を入れているのは、そうしたコンサルティングです。
松尾 もっともそうした動きは中国に限ったことではありません。米国も同じようにバイ・アメリカン法(Buy American Act)を強化するなどして、連邦政府が調達する製品の国産化を進めていますし、ハイテク製品の供給網から中国製品を排除する大統領令も出されています。ただ、米国の場合は日本をはじめとする同盟国が多いので、それらと結束したフレンド・ショアリングによってサプライチェーンを構築する戦略をとっています。
産官学の強固な連携で日本独自のルール形成を
──経済安全保障のコンサルティング活動において、EYの強みとは何でしょう?
泙野 リスクマネジメントだけに終始しないご支援、というのは1つ強調できる部分だと思います。先ほど申し上げたようにさまざまな事象を分析して先行的に対応すること、またそれを可能にするために、国内外の政府関係者や公的機関、専門家などと絶えず連携していること、さらに大学や研究機関などのアカデミアと強固な関係を築いていること、これらの総合力はEYならではの特長でしょう。
社内においても、本格的な政策シミュレーションを政府関係者に対して設計してきたメンバーや、海外に駐在をして現地のインテリジェンス収集を経験したものも参画しており、そのような専門性の高いメンバーと連携し、最新の情勢を把握し続けることができるところが大きな強みです。
松尾 そうした多様なセクターとの連携を原動力に、経済安全保障に関わるルール形成をサポートすることも、EYだからこそできるミッションの1つだといえます。
泙野 端的に言えば、ルールをつくった人がゲームに勝つという論理です。世界に先んじること、自国に有利なルールをつくること、その2点が重要です。米中が矢継ぎ早に仕掛ける規制の網、欧州経済圏を包囲する複雑で結束の固い法規制、それらのルールに従い、合わせているだけでは後手に回り、日本企業が立つ瀬はなくなってしまいます。
もちろん、同盟国である米国と足並みをそろえることは重要ですし、その一方で巨大な中国市場を無視するわけにもいきません。日本独自の路線をどう歩むのか、長期的視野に立って考えることが政府にも企業にも、私たちコンサルタントにも求められているのです。
──そうした遠大な社会課題に対処しながらお客様を支えることが、お二人が所属するストラテジック・インパクトの使命なのですね。関心を持たれた方にメッセージをお願いします。
松尾 経済安全保障という新しい分野に興味を抱き、未知の領域を拓きたいという探究心のある方と一緒に働きたいと思っています。私自身、IT系事業会社の出身で、経済安全保障との直接的な関係はありませんでしたが、社会全体のゆくえに関わる大きな視座から企業の成長を支えられることに惹かれて、EYへの転身を決めました。その醍醐味をぜひ味わっていただけたらと思います。
泙野 先を見通すことが極めて難しい領域において、たゆまぬ調査と分析、綿密な思考をもとに、本当にそうなのかと絶えず自問しながら答えを見出そうとする仕事。大きな価値と比例して苦悩もありますが、日本のために力を尽くしたい、より良い社会をつくりたい、そんな愚直な思いが自分の行動を支えてくれています。共感していただける方、歓迎します。
参考リンク:
内閣府/経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法)
経済安全保障の強化に向けて
EY Japan、経済安全保障リスクマネジメント支援体制を拡充
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