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次世代エネルギー 脱炭素と地域活性化の同時実現に向けて
シニアマネージャー 岡村
「このままでは今世紀末の気温上昇は3.2度に達してしまう」──IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表した最新報告書は、気候変動対策が待ったなしの状況にある現実を改めて突きつけました。その中でエネルギーを巡る未来の社会の姿はどのように変わっていくのでしょう。出力変動にリスクを抱える再エネを主役としながらも安定供給を実現し、さらに地域活性化にも資する仕組みについて考えます。
脱炭素社会に向けて世界中で拡大する再エネ
──今回のテーマは次世代エネルギーの未来です。その主役を張るのはやはり、再生可能エネルギーと考えてよいのでしょうか。
そうですね、世界的に見て、水力や風力、太陽光、バイオマスといった再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入が拡大傾向にあることは間違いありません。再エネによる世界の総発電電力量は2019年の場合でおよそ2900TWh(テラワットアワー)ですが、これは消費電力量全体の約1割を占めています(Statistical Review of World Energy 2020)。まだ少ないように感じるかもしれませんが、2000年以降は対前年比10%以上の成長率で伸び続けています。
日本の場合、再エネの割合はまだ18%程度に過ぎませんが(2019年度)、2021年10月に政府が発表した第6次エネルギー基本計画によると、2030年度には36〜38%程度にまで拡大するとされています。それまでの目標だった22〜24%から大幅に引き上げられたのは、深刻化する気候変動問題と、カーボンニュートラルへと向かう国際社会の動向とも無関係ではないでしょう。
脱炭素化への流れからすると、産業界においても再エネ利用拡大は無視できないテーマです。ご存知のように、2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択されたパリ協定を機に様々な取り組みが出現・拡大してきており、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること、いわゆるカーボンニュートラル実現に向けた動きが世界中で加速しています。
同じ年、G20の要請でTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が設立され、企業や団体に対して気候変動関連のリスクや機会に関する情報開示が推奨されました。また、事業活動においては積極的に再エネを利用するよう求める国際イニシアチブとして、RE100が提唱されたのも2015年です。
RE100に賛同する企業は、事業で使用する電力を100%再エネで賄うよう目指すことになりますが、最近では自社だけでなく、部品や資材の供給元を含めたサプライチェーン全体で取り組むケースも増えています。つまり、取引先にも再エネ利用促進が強く求められつつあります。また、気候変動対応に代表される、こうした非財務情報を重視するESG投資も加速しています。
分散型電力システムでエネルギーの地産地消が進む
──再エネを中心とした次世代エネルギーのあり方とは、どのようなものでしょう。
再エネが地球環境や経済活動などにとって望ましいのであれば、すべて再エネに切り替えればよいではないかとする意見があります。ですが、現実はそう単純ではありません。1つには、日本では再エネの発電コストが他の電源より大きく嵩むことがありますが、それ以上に、天候などの自然条件に左右されて出力が安定しないことや、立地に適した場所や地形などの制約によって設備の大型化が難しいといった問題があるからです。
したがって、不安定な供給を補うための別の設備なり仕組みなりを用意することと、比較的小さな設備をいろいろな地域に分散し、それらをつないで効率よく運用することが重要になってきます。さらに、電気というのは大量に貯めておくことが難しいため、絶えず需要と供給のバランスを取る必要があるのですが、再エネで出力が上がりすぎて余剰電力が生じた場合にどうするかも検討しなければなりません。
そうしたことを考え合わせると、これまでの火力発電のように大規模設備を使って集中的に効率よく大量に電気をつくり、それを送配電網を通じて全国津々浦々にまで分配する、といった仕組みでは対応できなくなってきます。そこで、大量の電力消費を必要としない需要においては、集中型から分散型への転換を図り、地域でつくった再エネを地域で使う地産地消の仕組みを基本として、これに蓄電の仕掛けも取り入れつつ、余った場合や足りない場合に他の地域と融通し合う双方向型の電力システムが台頭してくるものと思われます。
再エネの弱点を補う水素のポテンシャル
──最近よく水素社会という言葉も聞かれますが、再エネ中心のシステムの中で水素はどのような役割を持つのですか?
水素社会などと聞くと、これも大半のエネルギーが水素に置き換わるかのような印象を抱くかもしれませんが、決してそうではありません。Hydrogen Council(水素協議会)が発表した水素ビジョンによると、世界のエネルギー需要における水素の割合は2050年時点でも18%程度と予測されています。それでも、現状の1%程度からすれば大きな成長ですし、3000万人の雇用と2兆5000億ドルの経済効果、および年間60億トンのCO2削減を実現できる可能性があるといいます。
水素の活用は再エネ拡大にとっても重要です。自然界にそのままでは存在しない水素は化学的・工学的に製造する必要がありますが、その1つとして水を電気分解する方法があります。これに再エネの余剰電力を生かすことができます。再エネ設備の稼働率が上がる季節や時間帯に最大限に発電し、それを水素に変換して蓄積するわけです。
水素は超低温で液化すれば体積を約800分の1にまで減らせるので、輸送や貯蔵に適しているのに加え、燃料電池として発電に使ったり、水素自体を燃料として熱源に用いたり、あるいは化学反応によってアンモニアや合成燃料に換えたりと、さまざまに活用の道が開けています。もっと言うと、産出地が中東などに偏在する化石燃料とは違い、水素は世界中どこでも製造できますから、再エネの盛んな国で水素をつくって日本に輸送すれば、地政学的なエネルギー安全保障の観点からも有望な技術ということができます。
そのため、水素を活用する技術の開発には各国がしのぎを削っており、なかでも日本は特許出願数で世界1位を走っていると言われています。ただ、本当に需要を喚起できるかどうかはまだこれからの課題で、莫大な製造コストの低減をはじめ、産業や生活で水素を使うための支援体制や法整備など、小さい輪を徐々に広げていくような努力が必要です。
未来のしくみを構想するコンサルティングの醍醐味
──そのようなエネルギーの新しい仕組みを実現するために、コンサルタントとしてどんな活動をなさっていますか?
我々が考えるエネルギー利用の将来像としては、再エネを基軸とする地産地消のシステムによって自家消費を中心とする比較的小規模な需要を賄いながら、一方では大規模なエネルギーを必要とする製造業などの産業向けに、化石燃料に替えて水素やアンモニアといったCO2フリー燃料も活用していく、といった共存策を想定しています。
また、再エネによって地域を活性化することに加え、地域に放置されたままの山林をCO2を吸収してくれる資産として捉え直し、都市部から地方へとカーボンニュートラル実現のための資金が流れていく仕組みをつくれないかと考えています。その資金がまた地元の一次産業の振興や植林活動などに生かせるなら、地方の人口減少、労働力不足の解消にも役立つと思うのです。
そうしたことを実現するための調査分析や提言を通じた、企業や自治体、行政に対する働きかけは、これからのコンサルティングファームが担うべき重要な役割の1つだと考えています。このような大きな社会課題の解決は、1つの企業や自治体がどうにかできるものではありません。だからこそ、異なるプレイヤーの間に入って調整機能を果たしながら、望ましい解決策を導き出すことを日常の生業とする我々コンサルタントの出る幕なのだと思っています。
──岡村さんが所属するストラテジック・インパクトというユニットは、まさに社会課題解決をミッションとするコンサルティング部門なのですね。
はい。当ユニットは、安全保障、サイバーセキュリティ、経済、環境、金融などの領域において、長期的・俯瞰的視野から特定した課題に対し、米中冷戦や気候変動シナリオなどのマクロ環境変化を織り込んだ社会的構造変化を促す活動を行っています。中でも私が所属するESGチームは、ESGの考え方を企業経営や自治体経営に取り入れるためのご支援を中心に行っています。そもそもEYという組織自体が、Building a better working world(より良い社会の構築を目指して)をパーパス(存在意義)に掲げ、社会平和の希求をコンサルティング活動の根幹に据えている非常にユニークな存在で、そこが他のファームとの大きなの違いの一つであると言っていいと思います。
我々はそうした集団ですから、コンサルタントとしてこれから一緒に働くことになる将来の同志にも、「社会をより良くしたい」という強烈な想いと明確なビジョンを持っていてほしいと願っています。自分自身の行動が、社会のインパクトにつながっていく。そんな醍醐味のある職場でお待ちしています。
参考リンク:
『カーボンZERO気候変動経営』/日本経済新聞出版
BP世界エネルギー統計レビュー 2020年版 概要紹介
Statistical Review of World Energy 2020
第6次エネルギー基本計画/資源エネルギー庁
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